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第114話 氷河の塔4

last update Last Updated: 2025-06-03 19:36:34

 氷の女王が俺の顔をのぞき込むようにして言った。

「それで、どうするの? 永久氷河の勾玉、いる? いらない?」

「いる」

 危険があるにしろ、手放すには惜しいシロモノだ。

「おっけー。じゃあこれは、今日このときからお兄さんのもの。大事に使ってね」

「どうやって使うんだ?」

「手に持ってエイッと念じればいいよ」

 いい加減すぎる!

「……もう一つ。この秘宝はパルティアに狙われている。俺が手に入れたと分からないよう、目くらましとか幻術とか、そういう効果の魔法があれば付与してほしいんだが」

「いいけど、ただ持っているだけならごまかせるけど、使っちゃったらバレると思うよ」

「それでいい。頼む」

 氷の女王の手にある勾玉が淡く光った。

 ふわりと銀色のヴェールをかぶったようになる。これが目くらましの魔法なんだろう。

「はい、これでよし!」

「ありがとう。使うときはよく考えてからにするよ」

「うん、そうして。……それで、もう帰っちゃう?」

「ああ。ここは人間の俺には寒すぎるからな。熊にも」

「ガウ」

 俺とクマ吾郎が言えば、彼女は少し寂しそうに笑った。

「そうだよね。じゃあ、帰り道は晴れにしておくから。……雪の民も開拓村の人間たちも、あたしの庇護下にある。自然の法則を変えるほどは守れないけど、なるべく気に掛けておくね」

「助かるよ」

 俺はうなずいてきびすを返す。

「またね、お兄さん! いいえ、ユウ! 今日は久しぶりにピンチになって、楽しかったよ!」

 さすがは神様、名乗っていなくても俺の名前を知っている。

 俺は振り返って手を振った。

 彼女は笑顔で手を振り返してくれる。

 それが、守護神様との出会いと別れだった。

 氷の女王の言葉通り、下山の間はずっと晴れの天
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